UNISON

前回はマーケティングとは何かについてまず基本から共有し、また「すぐできる実践術」として「ペルソナ」(理想の顧客)の設定を紹介しました。
今回は「ポジショニング」について考えてみたいと思います。

比較検討を勝ち抜けるように
自社の「立ち位置」「キャラ」を決める

ポジショニングとは


 ポジショニングとは、市場や競合との関係における「自社の立ち位置」を決めることで、「誰に、何を、いくらで、どうやって」を決める「マーケティング」と表裏一体のプロセスです。

 イメージがつかみにくければ「キャラを決める」と読み替えてもいいでしょう。例えば芸人さんを思い浮かべてください。
 芸能界は競争(競合)が激しい世界で、テレビに出続けることができる芸人さんはほんの一握りです。その中ではキャラが立っている(=独自性がある)ことはもちろん、ギャラの安さなどテレビ局のニーズを満たすこと、売り出し方(プロモーション方法)を工夫することなども重要です。
 自社をどうプロデュースするかを考え実践するのがポジショニングだと考えてみるといいでしょう。

ポジショニングと企業規模

 住宅市場においては、「独自性」(オリジナリティ)と「価格」(プライシング)の2つを軸にポジショニングを行うのが基本となります。そのために不可欠なのが市場や競合の把握です。

 最低でも、年間に自社のエリアで住宅がどれくらい建っているのか、どれくらいの所得の世帯がどれくらいあり今後どうなっていくのか、どんな競合がいて誰に・どんな住宅をいくらで・どうやって提供しているのか、ざっくりでもつかんでおき、それも「ある程度」参考にしながら、マーケティング・ポジショニングを行います。

 「ある程度」と書いたのは、規模が小さな企業ほど、ポジショニングをあまり考慮しなくてもいいからです。
 芸人さんの例えで言えば、毎日テレビ番組に出れなくてもよく、司会としてレギュラーを取ることなども考えていない=マス受けしなくてもいいなら、自分がしたい突き抜けた芸やマニアックな尖った芸を磨き(=独自性を極め)、その芸を愛してくれる熱狂的なファンを少数でもつかめばいい。ギャラも自分を安売りしない額を設定する。
 ちょっと変なたとえですが、そんなイメージです。自社の現在・未来の規模とポジショニングは深い関係があるということです。

 実際、規模の小さな工務店なら、市場や競合を気にせず、独自性を磨き込んだ自社の理想の家と、それを理解してくれる人にピンポイントで届ける方法を追求すればいいでしょう。
 そうした手法は「ピンホール(針の穴)マーケティング」などと呼ばれ、ネットの普及進化がそれを可能にしています。
 新築でいえば、年間受注5棟前後くらいまでは、ネットを上手く使えば、ポジショニングを意識しないでもピンホールマーケティングが可能でしょう(その方法は追って共有します)。

 ですがそれ以上の規模を受注しようとすれば、ポジショニングが不可欠になります。なぜなら競合が増えるからです。

比較検討を勝ち抜く


 生活者は「基本的に」、競合商品を比較してから商品を購入します。
 「Amazon」「価格.com」「食べログ」などのサービスの普及で、購入者の声を参考に比較できるようになり、一層競合との比較がシビアになっています。
 そのなかでどう比較を勝ち抜き選ばれるかがポイントで、それには「独自性」(オリジナリティ)と「価格」(プライシング)のバランスが大きなポイントとなり、住宅市場でも「基本的に」それは同じです。

 「基本的に」と書いたのは、比較されないで受注する方法もあるからです。
 ひとつは競合がない商品・サービスをつくること、もうひとつは特命で選ばれる「ブランド」となるか「紹介」で受注することです。これらについても追って共有していきます。

 住宅における「独自性」(オリジナリティ)の基本は、デザインやプラン、性能、素材・設備、庭・外構などハード面の特徴とそれが実現する「ベネフィット」(便益)です。
 これらすべての要素を最高レベルで提供できれば理想ですが、もちろんそれを購入できる顧客層は限定されるため、「価格」(プライシング)が重要になります。
 その際に先ほどの市場や競合のデータを参考にしながら、できるだけかぶらないキャラ(立ち位置)、もしくは競合に勝ちやすいキャラ(立ち位置)を設定します。

すぐにできる実践術②「プライシング」


 図は住宅市場におけるポジショニング例を、独自性(こだわり)を横軸に、価格を縦軸にとってマッピングしたものです。
 今回はこれを参考に、自社のキャラ・立ち位置=ポジショニングを考えてみてください。

 たとえば①の「フォロワー型」とあるポジショニングは、ハウスメーカーの商品・サービスをフォローしたうえで、さらに若干の独自性(こだわり)を追加し、ハウスメーカーよりもリーズナブルに提供するというプライシングを行っており、地域ナンバーワンビルダーなどが行っているポジショニングです。

 また、②の「独自価値追求型」のポジショニングは、例えば一条工務店は、超高性能という独自性の高い商品を、そのこだわりが実現するベネフィットを「家は性能。」というキャッチフレーズを使ってわかりやすく訴求し、さらにハウスメーカーよりもリーズナブルに提供するというプライシングによって、シェアを伸ばし続けています。
 ハウスメーカーの中では一番高性能で一番リーズナブル。そのようなポジショニングはとてもわかりやすく、売りやすい。
 その点では、「どことなにで」比較に持ち込むのか、「競合の設定」も重要になるということです。

 住宅予算が二極化しながら一方は下落を続けるなか、独自性と価格の両方を実現するコストパフォーマンスの高さが競争優位になっています。この点は留意する必要があり、今後はプライシングが一層重要になっていきます。

三浦祐成(みうらゆうせい)
■ プロフィール
住宅ジャーナリスト
株式会社 新建新聞社
代表取締役社長

「変えよう!ニッポンの家づくり」を理念とした「新建ハウジング」や「リノベーションジャーナル」の発行人。その他に「木の家」「エコ」「工務店経営」にフォーカスした工務店向け専門紙の発行や住宅業界向けの執筆・講演を手掛ける。

主な発行物
  • 住宅産業大予測2017

    工務店を中心とする地域の住宅産業の目線に特化して、押さえておきたい住宅市場/業界/法制度を徹底解説。2017年を読む視点として、社会と業界の変化、3つのメガトレンドをピックアップしています。

  • あたらしい家づくりの教科書

    本当に"よい家"に住もう。生活の舞台としてふさわしい家とは何か?目に見えない「高性能なエコハウス」の良さをどう伝えるか?家づくりの最前線で活躍する9人のエキスパートが紐解きます。

  • リノベーション・ジャーナル

    収入減・増税・地域活性化・空き家対策など、現在の住宅事情に伴い、リノベーションの需要と存在価値は高まる一方です。施工・ビジネス・インテリアなど毎号様々な角度からリノベーションを紹介するマガジン。

ご意見・ご感想をお寄せ下さい。 info@unsn.co.jp