UNISON

第3回

前回は「ポジショニング」について紹介しました。
今回は「セルフブランディング」について考えてみたいと思います。
ブランドは結果的にできるものではありますが、意図して最短で構築することもできるのです。プロモーション予算に限りのある小さな会社こそ、セルフブランディングが不可欠です。

「選ばれた理由」と「何で選ばれたいか」を一致させる
「その他大勢」「価格競争」から抜け出す方法

セルフブランディングの重要性


 自社が顧客から選ばれた理由は何か(=現実)。
 そもそも自社は何で選ばれたいのか(=理想)。
 これを明確化し、理想と現実のギャップを埋めていく作業・プロセスがセルフブランディングです。

 何で選ばれたいか(=理想)は、言い換えれば「強み」で、自社の強みがターゲット層に「評判」として認知されている状態=「ブランドができている」状態です。

 例えば「三浦工務店は高いけど、デザインが素敵なうえ、暖かくて、素敵な庭も作ってくれるらしいよ」といった評判が、例えば地元の公務員層(=理想的なターゲット)のあいだで広がっていればベストです。

 でも、これは簡単ではありません。なぜなら住宅は一生に一度しか建てない人が大半で、評判をクチコミしてくれる期間は新築後しばらくの間だけだからです。また、悪い評判はすぐに流通しますが、いい評判はなかなか流通しないからです。

 それでも「何で選ばれたいか」(=理想=強み)を明確にして、強みを活かしながら、少しずつでもブランドを構築していく必要があります。

 「何で選ばれたいか」を意識しないで商売していると、他社のモノマネや後追いになり、「その他大勢」に埋没してしまいます。他社との違いがないなら、安くやる=価格競争に勝つしか選ばれる術はありません。

 逆に言えば、セルフブランディングは「その他大勢」から抜け出すための、よく言われる言葉で言えば「差別化」「差異化」の有効な方法です。

こだわりのある2割の顧客の場合

 最初からこだわりを持って家づくりをする人は、全体の2割程度かもしれません(20:80の法則)。


 さらに、「イノベーター理論」では先端的なこだわり層=イノベーターは3%弱とされています。
 確かに、服でも、自動車でも、同じように見えます。
 こだわらない人が大半な一方で、こだわる人はどんどんこだわりを深めていて、二極化しています。

 で、こだわりのある2割の層は、自分なりの「家づくりの物差し」を持っていて、その物差しに合う会社を積極的にネットやリアルで探します。

 そうした人から選ばれるには、自分たちの会社のこだわりやその背景にある思い、そしてこだわりを高いレベルで実現する人のスキルと魅力を発信するなどして積極的にセルフブランディングを行う必要があります。

 その結果、顧客が選んだ理由と何で選ばれたいかが合致すれば、お互いにストレスなく理想の家づくりに向かって協力していけます。
 これが工務店にとって理想的な顧客との出会い方だと思います。

8割の一般的な顧客の場合

 一方、家づくりにそれほどこだわりがない8割の人は、家づくりの物差しを持っておらず、それゆえ住宅雑誌やWebをさらっと見た上で、住宅展示場に行ってまず話を聞くケースが多いと思います。

 物差しを持たないまま、家づくりをスタートした場合、依頼先を選ぶ理由は総じて「価格」と「人」になります(グラフ参考)。
 なぜなら、こだわりがなくても、住宅に詳しくなくても、「高いか・安いか」と「人として信頼できそうか・好きになれそうか」は判断できるからです。


出所:リクルート「工務店で注文住宅を建てたカスタマーに関するアンケート」
実際に工務店で家を建てた施主の「選んだ理由」。
トップ3は「予算」「地元密着」「相談しやすく、頼りになる」で、「価格」と「人」にまつわるものが上位に入っている

 だからこそローコスト住宅の市場は一定存在し続けていますし、ハウスメーカーで家を建てた人に依頼先を選んだ理由を聞くアンケート調査結果を見ると、「営業マンがいい人だったから・相性が良かったから」といった回答がトップに来ることが多いことも頷けます。

 こうした8割の一般層=マス層から選ばれるためにもセルフブランディングは有効です。
 ただし、その前提として、家づくりの物差しを持たない人に物差しを植え付ける「布教活動」的な情報発信やコミュニケーションが不可欠です。

 こだわり・物差しを持たない人にいくら自社のこだわりや物差しを叫んでも、その声は届かず響きません。
 このため、量産住宅会社の多くは、メディアで紹介されている「トレンド」に自社の家づくりを合わせることで、自社への誘導を図っています。
 デザイナーズハウスやスマートハウスなどが典型です。
 その手法は全否定しませんが、理想は、自社の「いい家の物差し」を旗として掲げ、旗色鮮明にしてその旗になびく人を増やし続けることで、少しずつでもそれに共感してくれる顧客を増やし、ブランドを構築していくことです。

セルフブランディングの基本

 例えば、暖かい家が人の健康や家計にどんなベネフィット(便益)をもたらすのか、庭のある暮らしがどれくらい生活を豊かにしストレス発散につながるか、といったことをきちんと伝えた上で、それを徹底している自社の家づくりに触れてもらい、自社と自社の理想の家づくりにナビゲートしていく。
 そんなイメージです。

 その際には、これまで触れてきたマーケティングやポジショニングも重ねていきます。

 また、セルフブランディングした強みに合わせて家づくりやサービスも標準化し、一貫性を最大化することも重要です(このことについてはおいおい紹介していきます)。

すぐにできる実践術③「顧客アンケート」


 受注した顧客には必ず「なぜ自社を選んでくれたのか」をアンケートなどでお聞きしましょう。
 理想と現実のギャップが浮き彫りになり、どこをどう改善すべきかが見えてくるはずです。

 また、ギャップがなかった場合は、その回答を、理想を言えば名前と顔写真付きで、自社のWeb等に掲載していいかお願いします。

 そんな顧客の「選んだ理由」のコメントが増えていけばいくほど、自社のセルフブランディングが強固になり、それを見て共感した「理想の顧客」候補が集まってきます。

 また、Webに「当社がお客様から選ばれている理由」のコーナを作り、そこに何で選ばれたいか(選ばれているか)強みを明記した上で、顧客アンケートで拾った声も交えて紹介するのも一つの方法です。

三浦祐成(みうらゆうせい)
■ プロフィール
住宅ジャーナリスト
株式会社 新建新聞社
代表取締役社長

「変えよう!ニッポンの家づくり」を理念とした「新建ハウジング」や「リノベーションジャーナル」の発行人。その他に「木の家」「エコ」「工務店経営」にフォーカスした工務店向け専門紙の発行や住宅業界向けの執筆・講演を手掛ける。

主な発行物
  • 住宅産業大予測2017

    工務店を中心とする地域の住宅産業の目線に特化して、押さえておきたい住宅市場/業界/法制度を徹底解説。2017年を読む視点として、社会と業界の変化、3つのメガトレンドをピックアップしています。

  • あたらしい家づくりの教科書

    本当に"よい家"に住もう。生活の舞台としてふさわしい家とは何か?目に見えない「高性能なエコハウス」の良さをどう伝えるか?家づくりの最前線で活躍する9人のエキスパートが紐解きます。

  • リノベーション・ジャーナル

    収入減・増税・地域活性化・空き家対策など、現在の住宅事情に伴い、リノベーションの需要と存在価値は高まる一方です。施工・ビジネス・インテリアなど毎号様々な角度からリノベーションを紹介するマガジン。

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