UNISON

第9回

前回はSNSの活用術について「自己開示」をキーワードに解説しました。
受注に至るには、まず好きになってもらい(=共感・好感)、信頼してもらうという関係構築のプロセスが不可欠で、その基本が自己開示です。今回はSNSで発信すべきもう一つのことをお伝えします。

ハード面の違いを認識してもらうことは難しい
価格競争から抜け出すためにやるべきこと

注文住宅は差異化が難しい


 共感・好感・信頼が大切な理由は、人は「違いをよく認識できていないもの」は特に、共感・好感・信頼できる人・会社や、関係性が深くなった人・会社からものを買うからです。
(もしくは「価格」が安いものが選ばれがちですが、そのことは後述します)。

 住宅でも同じで、住宅取得者アンケートで「なぜこの会社を選んだのか」という問いに対して「営業スタッフが良かったから」「信頼できそうな会社だったから」という回答が上位にくるのはその表れでしょう。
 また、「違いをよく認識できていないもの」の典型がオーダーメード商品で、注文住宅はその最たるものです。
 基本は顧客の注文通りに作るわけですから、ハード的に差異を打ち出すのはもともと難しいのです。

 違いを認識してもらうための手法の一つが、自社の理想の家を「標準化」して標準設計コードや標準仕様に落とし込み自社の「スタイル」として提案すること、さらにはパッケージ化して価格をつけ「商品」として提案することです。
 ですがこれも、差異化しようと「ZEH」や人気建築家のスタイルなどの「トレンド」を取り込もうとすればするほど、かえって同質化してしまいます。
 一方で、細かな仕様や性能の違いで差異を打ち出しても、勉強熱心な生活者・マニアックな生活者はともかく、「普通の生活者」からすると違いが一層認識できなくなります。
(日本の家電製品が陥っている「差別化の罠」ですね)。

 繰り返しですが、注文住宅(ガーデンもそうだと思いますが)は、ハードでの差異化が難しいにも関わらず、ハード面のアピールを続けているのが住宅・エクステリア業界の現状です。
 大きな差異が感じられないなら、価格の安い方が選ばれやすくなります。
 この価格競争から抜け出すためにSNSでできることは、前回解説したように、好感・共感・信頼をベースとする、人や会社のアピールを行うことです。

SNSでもコンテンツマーケティング

 価格競争から抜け出すためにSNSでできることのもう一つが、「家づくりの物差し」を伝えることです。

 家づくりの物差しについては、この連載の第3回で解説しているのでご参考ください。
 ごく簡単に復習すると、自社の「いい家の物差し」を旗として掲げ、旗色鮮明にしてその旗になびく人を増やし続けることで、少しずつでもそれに共感してくれる顧客を増やし、ブランドを構築していくのが小さな会社の基本だということでした。

 SNSでは、自社の「いい家の物差し」をわかりやすく伝えるだけでなく、「物差し」を生活者目線で翻訳し、「いい家の選び方」「いい家のつくり方」といった生活者にとってのお役立ち情報として伝えていくことがポイントになります。

 これはつまり、第5回で解説した「コンテンツマーケティング」です。
 これもごく簡単に復習しておくと、有益なコンテンツを発信すればするほど、またそコンテンツに独自性と納得性があるほど、それを読みに来る人は増え、共感する人・プロとして認知してくれる人も増えていく、それを実践するのがコンテンツマーケティングです。

 自社のホームページ、コンテンツマーケティングを行うための特設サイトやランディングページでは、「いい家の選び方」「いい家のつくり方」の基礎知識をしっかり解説。
 SNSでは、自社の施工事例写真をピックアップし、それに関連する基礎知識をカジュアルに解説、その上でホームページや特設サイトの関連する項目のページ、関連することを見学できたり学べたりする機会を用意するならその紹介ページへのリンクを張って誘導する。
 使い分けはこんなイメージです。

すぐできる実践術⑨ 好感と気付きのためのSNS発信術


 SNSでの「物差し」的発信は、いい感じの写真や動画で「これいいよね」と好感を持ってもらいながら、「理由」を伝えることで「そうなんだ」という気付きを与えることが理想です。

 例えば、大きな開口部から庭が見え、その庭にはアウトドア用のテーブルセットが設えられていて、その上にはタープをかけて日差しを遮っている、こんな写真をSNSにアップするとします。
(イメージ図参照。ここでは諸事情からイメージ図を掲載しますが、実際は綺麗な写真をアップしてください)。


 この1枚の写真だけでも、「理由」を説明して気付きを与えることができるポイントはいくつもあります。例を挙げてみましょう。


● なぜリビングを一段下げているのか?
天井高を高くとり、腰掛けられる庭に面した気持ちのいい居場所を作るため

● なぜL字型プランとしているのか?
光と風と緑を取り入れる中庭的ガーデンを作るため

● 開口部が大きくても暑くない・寒くない理由は?
高性能窓を標準仕様にし、パッシブデザインを徹底しているため


 「素敵でしょ?」的な発信で終わらせず、なぜ当社はこうしているのかという「理由」を説明することで、例えば「窓にも性能が高い窓と低い窓があるんだ」という気付きを与えることができ、性能がいい家と関係があること、自社が性能を物差しに家づくりを進めていることを伝えることができます。

 また、ホームページ等で高性能窓やパッシブデザインについて解説したページを作っていれば、そこにリンクを張ることで、さらなる気付きや知識を提供できるだけでなく、自社のこだわりの「価値化」(顧客が価値だと感じるようになること)にもつながります。

 ウザくならないようバランスを調整することは必要ですが、こうした一手間をかけるだけで、成果を高めることができる実践術です。

三浦祐成(みうらゆうせい)
■ プロフィール
住宅ジャーナリスト
株式会社 新建新聞社
代表取締役社長

「変えよう!ニッポンの家づくり」を理念とした「新建ハウジング」や「リノベーションジャーナル」の発行人。その他に「木の家」「エコ」「工務店経営」にフォーカスした工務店向け専門紙の発行や住宅業界向けの執筆・講演を手掛ける。

主な発行物
  • 住宅産業大予測2017

    工務店を中心とする地域の住宅産業の目線に特化して、押さえておきたい住宅市場/業界/法制度を徹底解説。2017年を読む視点として、社会と業界の変化、3つのメガトレンドをピックアップしています。

  • あたらしい家づくりの教科書

    本当に"よい家"に住もう。生活の舞台としてふさわしい家とは何か?目に見えない「高性能なエコハウス」の良さをどう伝えるか?家づくりの最前線で活躍する9人のエキスパートが紐解きます。

  • リノベーション・ジャーナル

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